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紫色の月光

紫色の月光

第三十七話「団長、再び!」

第三十七話「団長、再び!」



 エリックがウォルゲムを掘った―――――もとい、貫き倒してから二ヶ月の月日が流れた。

 世間では『イシュ崩壊! ディーゼル・ドラグーンが犯罪者たちの手に渡り、ロボット犯罪多発化!?』と言うニュースで埋め尽くされており、誰もエリックたちの活躍を知る者はいなかった。
 ただ、『イシュ』と言う組織の幹部たちの死体が見つかっており、恐らくは仲間割れを起こし、内部分裂したのではないか、と言うことで人々の頭に脳内保管されているのである。

 しかし、世界中に知られた裏組織『イシュ』の組織力がなくなった事よりも、世界を賑わせたニュースが存在している。


 宇宙人の襲撃、である。

 
 ニューヨークに突如として現われ、所構わず攻撃していった円盤の大群。しかも堂々と攻撃宣言を行っている訳だから、立派な宣戦布告である。
 しかし、どういうわけか彼等は地球から撤退していったのだ。普通なら勢いづいてきた攻撃を止めて撤退することなど考えられない行為だが、人々にとっては『宇宙人』と言う存在を真正面から見せ付けられた、歴史的、尚且つ衝撃的な事件だった。そこまで考える余裕なぞ、よほど冷静な人間しか考えられないだろう。

 それから宇宙人の再来の雰囲気もなく時間だけが流れて行ったわけだが、この状況を誰よりも複雑に思っている男がいた。

 地球攻撃を仕掛けてきたエルウィーラー星人、その四大将軍の一人、アルイーター・スンズヴェルヌスである。

 地球人よりも回復能力が優れている彼は、前回のイシュ・ジーンに受けた傷もすっかり癒え、一人港のど真ん中で佇んでいた。

「………困ったぞ」

 額に汗を溜めた状態で呟くアルイーター。
 普通ならエルウィーラー勢である彼は地球の攻撃に加担するべきなんだろうが、今はそんな事が問題にならないくらい重大な事実があった。

(まさか……まさか姫様が我々と敵対しようとは!)

 頭を抱えて心の中でガッテム、と叫ぶ。どうやらこの事実だけで相当参っているようである。

 しかし、なんでまたこんな事態になってしまったのだろうか。
 
 確か、自分は他の将軍と競争しつつ地球侵攻を進めていたはずだ。それなのに途中で宇宙船を失う羽目になってしまい、挙句の果てには地球でこそ泥なんて真似しながら生きているではないか。

「……一体、どこで人生間違えたんだろうか」

 頭をフルに回転させて考えてみる。
 だが、困った時に限って脳みそは白状だった。肝心な時にいい回答を出してくれはしない。
 仕方がないので、ここはポジティブに考えてみることにした。

「うーむ、しかし仮にも四大将軍の一人としては、姫様を本軍と争わせることは出来ん。コレは寧ろ、エルウィーラーの神が私に与えた名誉挽回の好機なのかもしれん」

 いい感じでポジティブに考えることが出来たようだ。
 だが、まだ肝心にして究極の問題がある。

「……姫様は何処に行ったのだろうか」

 再び頭を回転させてみる。
 イシュ戦の後のフェイト・ラザーフォース衝撃の正体。それが明らかになった後、自分は確か、

『お前は連中との会話で貴重な存在だ。ちゃんと入院して、骨直しとけよ。俺ら、その間宇宙船でもかっぱらってくるから』

 と、物凄く眩しい笑顔でエリックに言われて、そのまま流されるかのようにして入院する羽目になった。
 
 と、言うことは、

「……私は暫くの間、一人ぼっちと言うことなのか?」

 その寂しい独り言に答えてくれたのは、港から聞こえる波の音だけだった。







 アルイーターは四大将軍と言っても、地球ではただの無職のお兄さんである。殆どその場だけの勢いで宇宙船を脱出した訳だから当然財布があるはずがなく(彼等の星が地球に対応しているお金を使うのか疑問だが)、何かを売ろうと思っても何もありゃしない。
 ゆえに、彼は一人で街中を歩いていたのだが、

「………なんか、孤独だなぁ」

 アルイーター・スンズヴェルヌス。実は少し寂しがり屋さんだった。

 今まで将軍でいられたのも、沢山の部下の支えがあったからこそ。そして地球で過ごせてこれたのも集落の仲間たちの存在が大きい。
 だがその両方を失い、同時にエリックたちに強制的に置いてかれた彼は、何とも言えない寂しさを実感していたのである。

「いかん。此処最近、いろんなことがあった為か私は疲れている!」

 頭を縦横と振り回しつつ、寂しさを紛らわせようとするアルイーター。
 
 と、そんな時だった。

「む?」

 彼の目に、ある看板が映った。いや、正確に言うとその文字だ。
 そこにはこう書かれている。

『相談乗ります。相談室KINOKO』

「………」

 正直に言うと、物凄く怪しかった。
 特に『KINOKO』が。

「よし、行くだけ行くか」

 だが、彼としては誰でもいいから思いっきり本音トークをしたかったのである。
 ゆえに、彼の足取りは結構軽い物だった。
 と言うか、スキップしていた。
 久々の本音トークを考えれば、彼の心はドキドキワクワクなのだ。こんな状態でスキップを抑えることは出来ないのであろう。

 だが、ぶっちゃけると少しくらい年を考えて欲しかった。





 相談室KINOKOには四人の男たちがいた。年は四人とも二十代前半といったところだろう。
 全員小奇麗なスーツ姿で、まるで今から就職の為に面接でも受けるかのようなピシっとした姿勢。
 しかも顔だちもそれなりに整っている。アイドル事務所に所属しています、と言えば普通に納得しそうな、そんな爽やか好青年な印象が、彼等四人にはあった。

 しかし、彼等は今から面接を受けるのではない。
 今からやって来る男の相談に乗るために集まっているのである。

 因みに、それぞれ名前はあるのだが、今はある事情で本名を捨て去っている。
 その為、今の彼等は俗に言うコードネームでお互いを呼び合っているのだ。

 それぞれ右から順番に、キノコ、マイタケ、タケノコ、ドクキノコと言った。
 なんでやねん、と突っ込みたくなるが、そう決まっているのだ。

「……なぁーんで俺たちこんなことしてるんだろうなぁ」

 マイタケがぼやくと、横にいるタケノコがため息をつきながらも言った。

「仕方がないだろう。最近は飯もろくにありつけねーんだ。こうなったらどんな手段でも稼ぐしかないんだ」

「しかしなぁ……何も、相談しに来た奴の身ぐるみを剥す、までやっていいのかねぇ?」

『何をふざけたことを言っているのだ貴様等ぁ!』

 その無駄に強すぎる叫びが部屋中に響いたと同時、四人の背中がびくり、と震え上がり、同時に再びぴしっ、とした姿勢に戻す。

『俺たちは悪だ。悪は悪なりの方法で金を奪わなければならん!』

「しかしですね、団長」

 声だけ聞こえる『団長』の存在を前に、ドクキノコが言う。

「俺ら、ぶっちゃけ人の相談にのれるような立派な人間じゃないですぜ。不審に思われたらおわりでさぁ」

 物凄く納得できることを言ってくれた。
 だが、彼等のリーダー、団長は聞く耳を持ちはしなかった。

『阿呆! そこらへんを誤魔化すのも悪に必要な要素の一つだ!』

「んな無茶な!」

 今までハイジャックとかしといて今更無茶もクソもないよなぁ、と横のタケノコは思っていたが、あえて口に出さないでおいた。

『大体にして、前回俺たちが務所脱走したばっかで金がねーからこんな真似してるんだろうが! 嫌なら嫌なりに稼ぐ方法を考えやがれ!』

 それを言われたら結構痛い訳である。
 いい方法がまるで思いつかないものだから、なし崩し的に団長の提案を呑まなければならないのだ。

『俺はこのまま別室で待機しておく。なんか俺に用があったら、足元のボタンを押せ。もしくは俺が必要だと俺自身が判断した時、すぐに駆けつける』

「わ、分りました」

 了承し、通信が切れたと同時、目の前の扉からノック音が響く。
 次の瞬間、扉の向こうから青年の声が聞こえてきた。

「あのー、電話でそちらに相談しに来たアルイーターと申しますが……」

 どうやら、いいタイミングで鴨がやって来たようだ。
 こうなりゃあヤケだ。人様の相談をするような立派な人間ではないが、出来るだけのことをやってみようじゃないか。

 四人は無言のうちに思考がシンクロし、アルイーターを部屋に招き入れる。
 
「失礼します……」

 ゆっくりと扉を開け、室内に足を踏み入れるアルイーター。
 そして、この光景を見た四人はこう思った。

 なんか、いい育ちをしたっぽい青年だな、と。
 一応、彼は将軍とはいえ、生れはエルウィーラーでも有名な貴族なのだから、自然とそういう雰囲気が出ているのだろう。

「えー、お名前を確認させていただきますと……アルイーター・スンズヴェルヌスさんでよろしいですね。……しかし、変わった名前ですね」

「たまに言われます。因みに、情報として付け加えさせてもらいますと……職業はフリーター(元将軍)、誕生日は(地球で)8月27日、血液型は(地球人に合わせると)B、現在恋人募集中で好きな食べ物はゴーヤーチャンプルー。最近読んだ本は『魁!! クロマ○ィ高校』、好きなアーティストは『筋肉○女○』、最近泣いたキッカケはド○えもんの映画をみたことです」

 何かよくわからないが、要らない情報が次々と吐き出されてしまった。
 
「あ、因みに、好きな言葉は『粉砕、玉砕、大喝采』です」

「はぁ……そうですか」

 何だか結構特殊な系統の人が来たな、と四人は思った。
 果たしてこの男相手に自分たちで勝てるのか分らないが、今はやるしかない。流石に標的が来た後、すぐに団長に頼ってはかっこ悪いからだ。

「それで、悩みと言うのは?」

 率直に聞いてくるマイタケ。
 普通なら世間話でもして相手をリラックスさせてから話す物だが、彼等は普通ではなかった。寧ろ、こっちがカウンセリングを受けたい気分である。

「はぁ、実はですね……」

 アルイーターの話はここから壮絶な物語へと進んでいく。
 ここでのポイントはズバリ、彼の悩みが『姫様と本星とのバトルをなんとかできないのか』、ということである。

 そして、彼は事もあろうかその経緯を、学校の先生が出来るんじゃないかと思える程丁寧で分りやすく四人に教えてくれたのである。しかも自分が宇宙人である、と言うことも含めて全部。詳しく。これ以上ないってくらいに。

 しかし、この話をそれなりに真剣に聞いた四人は全員同時に思った。


 これはひょっとして電波なのか、と。


 このSFにRPGを混ぜ込んだような、誰かの妄想みたいな話を本当に信じろと言うんですか、と素直に思ったのだ。

「姫様はもはや戦う気満々です。私はどうすればいいのでしょうか?」

 困った四人を他所に、一人真剣に返答を期待するアルイーター。
 ぶっちゃけ、困ったのは四人の方であったとは1ミリも気付いていやしない。

「あー、えー……アルイーターさん?」

「何でしょう?」

 重い沈黙だけは避けたいと考えたのか、タケノコが口を開く。

「えー、先程までの貴方の話を聞く限り……貴方は宇宙人、しかも今ニュースで世間を賑わせている、地球を攻撃した円盤の仲間、と?」

「正確に言えば、四大将軍の一人です」

 真顔で言われても困る訳である。
 
「兎に角、私ことアルイーターとしましては、本星と姫様。そして地球が戦うことに関して、何としても止めたいと思うのです」

 何より、この地球にはモーガンを初めとする仲間たちに世話になった恩がある。
 このままエルウィーラー戦力が地球に攻め込んできたら、世話になった彼等に対して余りにも申し訳がないような気がしたのだ。
 たとえこそ泥に成り下がろうが、アルイーターは恩を仇で返すことだけはしたくない。そういう男だった。

「故に、どうすればいいのか……貴方たちの意見、聞かせてもらえないでしょうか?」

 この通りです。

 直後、アルイーターは椅子から立ち上がり、数歩前に出る。
 そのまま床に正座して座り込み、深々と土下座を―――

「止めときな」

 正に頭を床に降ろすその瞬間だった。
 一つの力が、アルイーターの頭を掴んで放さない。がっちりと捕獲し、彼の土下座と言う行為を防いでいるのである。

「おめー、仮にも人の上に立つ野朗なんだろう。しかもいいトコ出だ。そんな奴が、俺たちみたいな庶民の下を行く貧乏人。それも賊に向かって頭を下げちゃあならんな」

 力強い男の声。
 一体何者だ、と思い振り向くと、其処には長ズボンにTシャツ一枚のマッチョなおっさんがいた。

「だ、団長!」

 即座にマイタケが反応する。
 すると、突然乱入してきた団長は無言で彼を睨んだ。

「ちょっと席についてな。俺ぁ、コイツとお喋りしたくなったぜ」

 言い終えると同時、彼は掴んでいたアルイーターの頭を解放する。

「宇宙人。俺はこいつ等を纏め上げる男……団長だ。よく覚えておけ」

「……団長。今の私は部下を失い、船を失い、世話になった仲間すら失った、ただのコソ泥です。全く人の上に立っている者では―――」

「馬鹿たれがぁ!」

 言いかけたその瞬間、アルイーターの右頬に団長の鉄拳が炸裂。
 余りの突然のことに、団員全員、そしてアルイーターも訳のわからないまま団長を見ることしか出来なかった。

「ならば逆に問うぞ宇宙人。貴様の失ったその部下や船や仲間……果たして、貴様のそんな姿を見てどう思うだろうな?」

 腕を組みつつ、アルイーターに問いかける団長。
 その姿は、どういうわけかとても輝いて見えた。

「俺の哲学だ。―――人の上に立つ奴は、自分より下の奴に頭を下げちゃならん。その証拠に、俺は其処にいる団員どもに一度も頭を下げたことはない」

「そりゃあそうでさぁ、なんたって俺たちは進んで頭の部下になったんですからね。そうですよね!? お頭!」

 後ろからキノコの声に反応した団長は、ああ、と力強く頷いてから回れ右。
 キノコと正面から向き合ってから、

「俺は団長だっつってんだろうがこの馬鹿たれがああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 先程のアルイーターに直撃した拳よりも、明らかに強力そうなストレートがキノコの顔面に突き刺さった。
 
「がふぉ!?」

 口と鼻から血を噴出しつつ、美しいともいえる放物線を描きながら吹っ飛ばされるキノコ。彼等のお決まりのパターンとはいえ、とても痛々しい光景だ。

「いや、すまない。部下が大変な間違いを犯しているので、修正させてもらった。見苦しかっただろう」

「いえ、部下の間違いを正すのもまた上司の仕事ですから」

 振り返って恥ずかしそうにしている団長を他所に、真顔で納得するアルイーター。

「しかし、だとしてもどうすれば……」

 だが、根本的な問題は変わっていない。
 そして同時に、解決してすらいなかった。

「一体どうすれば姫様と本星の衝突を避けられると言うのだ……!」

 頭を抱えて、苦悩するアルイーター。

 だが、次の瞬間。

「じゃあ、本星にでも行って、直接説得してくりゃあいいんじゃねーのぉ? 皇帝様とやらに」

 団長が当たり前とでも言わんばかりの顔で呟いた。
 それを聞いたアルイーターは思わず考え込む。

「………成る程。結構ナイスアイデアかもしれませんな」

「だろ?」

「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!? そんなんで解決しちゃったの!?」

 思わず突っ込みを入れるその他の団長軍団。
 しかし、考えても見ればこれが現時点でのベストな選択である。

 仮にも将軍であるアルイーターなら皇帝のところに楽に行けるはずだし、話も聞いてもらえるはずである。

 だが、よくよく考えるとこれには大きな問題点が二つあった。

「そもそもにして、宇宙船なんてどっから入手するんですか。沈んじゃったんでしょう?」

「うむ、沈んだな……そのお陰で、現在姫様たちも独自に宇宙船を探しているのだが」

 根本的な問題だが、宇宙船がないと話にもならない。
 しかも、地球の宇宙進出のレベルはエルウィーラーと比べても明らかに遅れている。この状態でエルウィーラー行きを目指すと言うのは中々厳しいのである。
 ならば本星に連絡を入れればいいのではないかと言う話になるのだが、実は前回の戦いの後、アルイーターの連絡手段方法である腕時計はフェイトに取られたままであり、彼は連絡手段を一切所持していなかった。

「更に言うと、既にこうして部下を失って、船も沈められた将軍が、今更本星に戻っても恥を晒すだけなのではないかと思うのですが……」

「ぬごぉ!?」

 マイタケの一言がアルイーターのハートに突き刺さる。
 これはこれで中々痛い発言である。だが、悲しいけど現実は受け止めなくちゃならないのだ。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおお……! 私は、私はどうすればいいんだ畜生おおおおおおおおおおおおお!!!」

 しかし、張本人であるはずのアルイーターはかなりの錯乱状態だった。頭を抱えては床に頭突きをする始末である。精神的に相当参っているようだ。

「……よし、ならこうしよう!」

 すると、団長はアルイーターの肩にぽん、と手を置いてから喋り続ける。

「お前の船をサルベージしよう」

 さらっと凄まじい発言が飛び出した。

「…………」

 この発言を聞いたものは、目を輝かせ、尚且つ感涙しながら団長にありがとう、ありがとうと連呼しまくっているアルイーター以外、全員が唖然としていた。


「あの……団長?」

 汗だくになりつつ、タケノコが問いかける。

「ん? 何だ。パンツのゴムでも切れたのか?」

「違います。どうやって宇宙船なんて代物をサルベージする気なんですか。俺たち、船もなければ資金もないんですよ!?」

「アホたれが」

 タケノコの尤もすぎる主張に対し、団長はたった一言だけで全てを片付けてしまった。

「無ければ手に入れる! 例えどんな手段を使おうがな!」

 豪快に拳を天につきかざし、堂々と主張する団長。

「大体にして、俺たち世間の悪が社会のルールに縛られる必要なぞ、あるはずがない!」

 そりゃあ犯罪者名乗っている以上、納得の二文字な訳だが、やはり団員たちは納得できなかった。
 そもそもにして、自分たちの目的がどんどん逸れているような気がする。
 確か、最初はこの男は身ぐるみを剥がす事が目的だったはずだ。何だか相談自体が壮大だったので、すっかり忘れてしまっていたのだが。

「よーし、宇宙人。取引と行こうじゃねーか」

「取引、ですか?」

 団員たちが、今まさに目的を思い出させようと声をかけようとした瞬間、団長はまるで悪戯を考え付いた子供みたいな笑みを浮かべつつ、アルイーターに取引を持ちかけてきた。

 その内容とはズバリ、

「もし、宇宙船をサルベージできたら、この団長様の全宇宙制覇の野望を成し遂げる手助けをする、と! つまり、全てが解決した後、宇宙船はこの団長様の所有物となるのだ!」

『それが目的なのかアンタはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?』

 団長の衝撃の野望を聞いた団員たちは思わず突っ込みを入れるが、

「分りました」

『って、この宇宙人承諾しちゃってるううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!?』

 予想を大きく裏切るアルイーターの返答に、またしても突っ込みを入れざるを得なかった。

「このアルイーター・スンズヴェルヌス。恩を仇で返すようなことだけは、ぜぇったいにしませぬ! それだけは約束できます」

 何故か自信満々の顔でそう答えるアルイーター。
 この男は果たして団長が何を言っているのか理解できているのか疑問である。

「よーし、喜べお前等! 今から、団長軍団に新メンバーが加入した!」

 豪快に笑いながらアルイーターを指差す団長。
 簡単に言うと、この男は宇宙人、しかも将軍だった男を自分たちの仲間に引き込んできたのである。

「アルイーター・スンズヴェルヌスです。皆さん、改めましてよろしくお願いします」

 そして、何故かこの状況にまるで疑問を抱かずにぺこり、とお辞儀をするアルイーター。この男は本当に状況を分っているのか、と問いたくなる。

「つー訳で、今日からコイツの役職は『副団長』になる。お前等、今日からコイツの言うことをよーく聞いとけよ」

『ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!?』

 流石に将軍、と言う肩書きがあるだけに団長軍団でも身分が高い。
 何処の世の中でも、経歴は結構大事なのだ。しかも悲しいことに、経歴だけで他の団員たちをごぼう抜きである。ある意味当然と言えば当然なのだが。
 だが、そんな状況下でも自分のペースで生きる男がいた。

 団長に一番殴られている男、キノコ(本名、マイケル・田中)である。

「それじゃあ、副お頭ですね、お頭!?」

「だぁから団長だっつってんだ馬鹿キノコがああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 またしても団長の凄まじい効果音付きの拳をモロに受け、宙に投げ飛ばされるキノコ。
 もはやお約束のパターンと言える光景だが、もしかしたらこの時間が、今の彼等にとって一番幸せな時間だったのかもしれない。

 宇宙制覇と言う、途方も無い夢に向かって行くことを目標としたこのワクワク感が、今の彼等を大きく動かしたことは確かな事実なのだから。




 続く



次回予告


エリック「久々のオーストラリアに帰ってきた俺たちは、必要な物を再び纏めるためにニックの部屋へと帰ってきた!」

マーティオ「しかし、どういうわけかあのクソじじいは部屋を売り飛ばしていやがった。しかも『探さないでください』と言う置手紙まで」

エリック「一体ニックに何があったのか!? そして、俺たちの前に突如として現れた謎の男の正体とは何か!? 何か俺みたいなオタクでも構わず食っちまいそうなこの空気は一体何なんだー!?」

マーティオ「次回、『愛に年の差なんて関係ないわ!』。禁断の愛、許されざる愛の行方とは一体なんだ!?」

エリック「……畜生、なんか新展開早々に嫌な予感がしやがる」





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